ジェームス・ストラウス:インタビュー

世界で活躍するフルート奏者

ジェームス・ストラウスと藤掛廣幸の関係は藤掛の音楽と通じて30年以上になる。地球の全く反対側のブラジルに住んでいたジェームスと日本の藤掛が繋がったのはまさしく音楽には国境がない証であると言えるだろう。ジェームスの演奏を聞くと彼が心の底から音楽を楽しみ、そしてその音色からは愛情を感じることができるだろう。彼はベネズエラでのエル・システマにおける人道的支援のため2019年に世界平和実現のための活動を推進している国連経済社会理事会の総合協議資格を有する Universal Peace Federationより表彰を受けているアーティストである。彼の活動はフルートの演奏だけに止まらず、音楽学者としての活動も大変興味深く、歴史的にも重要な役割をになっていくだろう。また、ジャン=ピエール・ランパル(Jean-Pierre Rampal)の数少ない現存する弟子でもあり、世界で次の世代を担うフルーティストになっていくだろう。

インタビュー:2021年3月1日

1974年11月29日生まれ
ブラジル人フルーティスト、音楽学者
現在の活動拠点:ウィーン(オーストリア)
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James Strauss <james.strauss@gmail.com>

受賞歴:

  • UFAM Concours International de flute, first prize, 1998年
  • UFAM Concours International de Chamber Music, first prize, 1999年
  • Concours International de flute de la Ville de Lempdes, first prize, 1997年
  • Concours International de flute Morangis, first mention, 1997年

 

いつ、フルートを始められましたか?

私は音楽一家で育ちました。祖父はマンドリンとギターを演奏し、父はバイオリニストでした。父の影響で四歳の時にバイオリンのレッスンを始めました。父の夢は私を偉大なバイオリニストにすることでした。しかしながら、ある日父がジャン=ピエール・ランパルのレコードを持ち帰ってきました。その魔法のようなフルートの音色を聞いた私はバイオリニストではなく、フルーティストになる決心をしました。それは12歳の時でした。我が家にとってどれほど大変な事件だったかご想像していただけると思います。まず、父にフルーティストで成功してみせると説得しなければなりませんでしたが、その後は父も納得してくれて家族全員が私の選んだ道をサポートしてくれました。特に祖父は私が様々な曲を覚えるのを手伝ってくましたし、また私と一緒に演奏することを喜んでいました。父は少しやきもちを焼いていましたがなんだか嬉しそうでした。

 

藤掛廣幸をどのように知りましたか?

最初は小学生の時に藤掛廣幸のマンドリン作品で知りました。祖父が藤掛作品をマンドリンオーケストラで演奏していて、藤掛作品の大ファンでした。それが藤掛作品との初めての出会いでした。当時の楽譜には本名である「Hiroyuki Fujikake」と記載されていました。数年後、ジェームス・ゴールウェイと出した「妖精の森」のCDに出会い、藤掛作品に恋に落ちました。CDでは「Hiro Fujikake」となっていたので最初は祖父が好きだった日本の作曲家と同一人物なのだろうか?と思いましたが、すぐに藤掛廣幸の作品だと気付きました。

 

藤掛廣幸の音楽が影響を与えた経験はありますか?

私にとって藤掛作品は今まで聞いた作品の中でも掛替えのないもので、そしてそのサウンドはとても平和的に感じます。2020年4月にブラジルに戻った際に重症にはいたりませんでしたがコロナに感染して、藤掛廣幸の音楽を演奏することで癒されましたし、これからの人生に対して希望を見出すことができました。私の演奏を聞いて、周りにいた人たちもみんな励まされているのを彼らの表情から読み取ることができました。藤掛作品のすごいところは人々に喜び、勇気そして平和を与えることだと思います。

 

どこの国で演奏されてきましたか?

今まで52カ国で演奏してきました。(日本は2010年に一度あります。)2018年のコンサート ツアーは思い出深いものでした。スロバキア、イスラエルのVirtuosi(ヴィルトゥオージ:弦楽奏者のグループ)との共演を始め、リトアニア国立交響楽団、アメリカのツーソン交響楽団、バージニア交響楽団、エクアドルのグアヤキル交響楽団、ウィーンのモーツァルトオーケストラなどなど世界各国を回りました。

2016年4月16日のエクアドルでフルート楽曲の演奏中、マグニチュード7.8の地震に見舞われたのも印象的な出来事でした。都市の半分は壊滅的で、劇場からフルートを片手にまたオーケストラ所属のフルート奏者をもう片腕で支えながら劇場から逃げなければいけない状況でしたが、かろうじて生き残ることができました。本当に忘れられないコンサートです。

どこでフルートを勉強されましたか?

ブラジルでは私が生まれ育った町であるレシフェの音楽学院(Conservatorio Pernambucano de Musica)でパリ留学を経験しているSergio Campelo教授の元で勉強しました。その後、パリにあるEcole Normale de Musique de Paris(エコールノルマル音楽院)とParis Conservatory(パリ国立高等音楽・舞踊学校 )を卒業しました。100年以上の歴史を有するフランスのフルート教育はどの分野においても最高峰で、世界中からフルーティストを目指す学生が集まってきます。チャイコフスキーの手紙の中にフランスにおけるフルート教育のことが書かれており、Paris Conservatoryで当時教育していたポール・タファネルやその他8人の先生たちに関しての記載があります。私にとってパリに行って勉強することは自然な流れでジャン=ピエール・ランパル(Jean-Pierre Rampal)をはじめフランスで活躍してるフルーティストのピエール=イヴ・アルト(Pierre Yves Artaud)やモーリス・プルヴォー (Maurice Pruvot)の指導を受けました。このような教育環境に身を置くことで知識の泉と出会うことができたことは掛替えのない宝物です。世界的に一流のフルート奏者であるジェームズ・ゴールウェイ(Sir James Galway)やウィリアム・ベネット(William Bennett)もまたジャン=ピエール・ランパル(Jean-Pierre Rampal)の元勉強した経歴があることを見てもフルーティストにとってどれだけ恵まれた環境に身を置くことができたか分かっていただけると思います。

 

ベネズエラでのエル・システマにおける人道支援の活動について教えてください。

エクアドルのオーケストラに在籍していた時、ベネズエラを訪れる機会がありそこで現地の人たちの生活状況に驚きました。まず頭を過ったことは、なんとか彼らを助けるために行動を起こさなければということでした。そこでエル・システマのプロジェクトを知り、参加することにしました。プロジェクトを通じて2016年から音楽を通じて支援するために自費で4年間、カメラータ・シモン・ボリバル交響楽団(Camerata Simon Bolivar)を運営しました。巨匠であるホセ・アントニオ・アブレウ(Jose Antonio Abreu)が立ち上げたベネズエラのシモン・ボリバル・オーケストラから来た若い音楽家で構成されています。このオーケストラより5枚のアルバムがリリースされました。その中には最新作で大成功を収めたフィリップ・グラス(Philip Glass)のフルートの為の音楽を収録した「Venezuelan Elegy」も含まれています。

 

 

音楽学者としての活動を教えてください。

1999年にはフィンランドへ移り住み、1894年に失われて神話でしかなかったチャイコフスキーのフルート・コンチェルトの調査を開始しました。リサーチを重ねて数年間かけてチャイコフスキーのフルート・コンチェルトの再構築を行いました。この作品に関しては多くの人の注目を浴びることになり、アメリカで出版されてCDがリリースされ、様々な方に演奏されています。いくつかの曲は学校の教材にも取り入れられています。

音楽学者として失われた作品を常に探し続けています。現在はウィーンで興味深いモーツァルトのプロジェクトに取り掛かっていて再構築を進めています。この次のプロジェクトはイタリア人フルーティストでフランス革命下に置いてフランスの音楽界に革命をもたらせたルイージ・ジアネッラ(Luigi Gianella)作曲のコンチェルトを全て録音です。

 

今までの最高傑作の演奏を教えてください。

本当にいろんなスタイルの音楽を演奏することが好きです。自分の演奏からいくつか選ぶとしたらモーツァルトの演奏、ジャック・イベール(Jacques Ibert)やフローラン・シュミット(Florent Schmitt)のフルート・コンチェルト、またサヴェリオ・メルカダンテ(Saverio Mercadante)のコンチェルトでしょうか。

アンコールでの演奏も大好きで例えば日本でモーツァルトの公演の後に「浜辺の歌」や「花」のアレンジを演奏した時にすごく喜ばれたのを記憶しています。また、日本で演奏できることを楽しみにしています。そして藤掛廣幸作品のを演奏したいです。ありがとう!