イオ・パヴェル さんインタビュー

国境を超えて進化し続ける尺八奏者

モスクワで尺八の第一人者として活動され、2013年に来日され活動の場を広げられているイオ・パヴェルさんにインタビューいたしました。

イオ・パヴェル さん公式HP▶︎

プロフィール

ロシアモスクワ出身。

10代の頃、日本の尺八と出会い、その美しい音色に心打たれて尺八を独学で始める。その1年後、モスクワ音楽院ワールドミュージックセンターにて清水公平氏、アレクサンドル・イワシン氏に師事。

モスクワ音楽院の「民族音楽フェスティバル」に出演し、その後モスクワのコンサートやテレビ・ラジオに尺八奏者として多数出演するなど、モスクワで尺八の第一人者として幅広い活動を行う。2013年に来日、尺八奏者の石川利光氏に師事し、日本での演奏活動を開始する。文化庁文化交流使フォーラム、平河町ミュージックス春季公演、日越・絆の夕べコンサート、トッパンホールや岡山シンフォニーホール・霞が関コモンゲートでのコンサート、第10回津山音楽祭など多数出演。能舞台、後楽園、また美術館やお寺・教会でのコンサートなど演奏活動は日本国内多岐に渡り、2016年にはモスクワ音楽院より招聘されリサイタルを開催。2018年にはモスクワ音楽院のオーケストラと「ノヴェンバーステップス」(武満徹作曲)を共演。ロシア国営放送にも出演。中国でも公演を行う。活動はテレビやラジオ、新聞等にも多数取り上げられ、内閣府発行の日本文化を世界へ発信する雑誌「TOMODACHI 2017年春号」、着物雑誌「月間アレコレ」に活動が大きく紹介された。NHK 邦楽オーディション合格、NHK-FM「邦楽のひととき」に出演。第22回くまもと全国邦楽コンクール優秀賞受賞。

より多くの人に尺八の音色を身近に感じて楽しんでもらいたいという思いから、コンサートのみならず全国各地での講演会や学校公演・ワークショップも意欲的に開催している。国籍や人種、年齢に関係なく音楽を共有したい、また音楽のルーツは一つという思いをもとに、古典のみならずクラシックや現代音楽・朗読音楽などバリエーションに富んだ幅広い演奏も行う。

東京芸術大学大学院修了。尺八の研究を行いながら、国内外にて演奏活動を行っている。

どんな子供時代を過ごされましたか?小さい頃はどんな音楽が好きでしたか?

私の子どもの頃にはインタネットやパソコンがまだなく、本を読むのが大好きでした。また母が声楽家でしたので、私も5歳から歌で舞台に立ち、少し大きくなると母の仕事(声楽家とともに学校でも教えています)の手伝いで、ヤマハ PSR-510のシンセサイザーで曲を作ったり、子どものミュージカルに参加したり、小学生の高学年になった頃からミュージカルの音響の手伝いもしていました。夏休みには、曾祖母の故郷(モスクワから200キロ離れた町)に行って大自然の中で過ごしましたので、今でも森が大好きです。

私が生まれてすぐにソ連が崩壊したので、幼少の頃は物がない生活でしたが、そのような中でも母がSANYOのテーププレイヤーを買ってくれたのがとても嬉しくて、色々なジャンルの音楽を聴きました。ラジオで流れた音楽を録音して、お気に入りの曲のテープも作りました。その頃はアメリカのポップスが好きでしたが、友人の影響でその他の音楽―アメリカのポップスや、ロック、電子音楽、Drum and Bass―などにも興味を持つようになりました。もちろん、チャイコフスキーやラモーツァルトも聞いていました。それぞれの音楽ジャンルの要素が好きだったような気がします。

大自然の中で過ごし、色々な本を読んだり音楽を聴いたりした子供時代でした。

尺八のどんなところに魅了されて本格的に勉強されようと思われましたか?

色々なジャンルの音楽には、それぞれの音楽にそれぞれの要素があります。宇宙をイメージすると電子音楽を、メロディーを楽しみたいときにはポップスを、ダイナミックを感じたいときにはロックを聴きたくなります。そのような様々な要素を尺八はすべて持ち備えているところに魅了されました。私はそれらすべての要素は尺八古典曲の中に含まれていると感じていて、そのために尺八古典曲を学ばなければならないと考えています。ロシアでは音源を聴いて真似をするという、ほぼ独学でしたが、やはり本格的に学びたくて、日本の大学で習うことを決めました。日本の音楽(邦楽)は、哲学や歴史・文学などともリンクしているように感じていて、尺八を学ぶときも音楽だけでなく曲の意味をより深く理解できるように、哲学や歴史・文学などもリンクして学ばなければならないと感じています。そのためにも色々な先生方に師事し、曲や芸に対して様々な角度からアドバイスをいただくこともとても大切だと考えています。

どのような時に尺八に選ばれたと感じられますか?エピソードを含めて教えてください。

尺八の楽器は竹でできているため、西洋の楽器と比べてそれぞれの楽器の個性の幅が広いと思います。同じ製管師が作っても、素材の竹自体が全部違うので楽器の特徴もそれぞれですが、世界でも数管しかないようなとても素晴らしい尺八に出会えたことです。そして、音楽と尺八のお陰で色々な素晴らしい方とも出会えて、サポートしていただき共演させていただいたりしています。尺八を始めてから多くの素晴らしい出会いがあり、またどんどん尺八奏者としての道が開け、恵まれた環境に身を置くことができています。他のことに比べてスムースに事が進んでいっているような気がしています。

古典を大切にしつつ、洋楽器やパイプオルガンとの共演など尺八の可能性を広げて活動されていらっしゃいますね。演奏される楽曲はもともと尺八のために書かれたものが多いですか?

尺八と洋楽器のために書かれている曲は、決して多くありません。それでも最近は多くの作曲家の方々が邦楽の曲を書いてくださっているので、選択の余地が広がったと思いますが、それぞれのコンサートのプログラムの内容によって選曲しますので、実際にオリジナルで書かれている曲を演奏することは少ないかもしれません。また尺八の技法にあう洋楽の曲を探し、自分で尺八の楽譜をおこして演奏することもあります。一般の方には洋楽の曲を尺八で演奏するのは不思議なことかもしれませんが、私は尺八の音色は「人間の声(歌)」と考えていて、今までのコンサートでのお客様の反応にも違和感はありませんでした。尺八の音色はどの洋楽器とも違いますが、曲の内容を大切にしつつ尺八の特徴を生かし、新しい音楽性を生み出せるように心がけています。

演奏される際に大切にされていることを教えてください。

全てが大切なので、「これ」というのは難しいです。技術を守ること、共演者とのタイミング(呼吸)を合わせること、曲のメッセージを音で伝えること、お客様を幸せにすること、演奏をできる空気を作ること、一つの楽器(尺八)で世界観を作ること‥‥たくさんのことが大切で言葉で説明するのはとても難しいですが、大きくとらえると曲の理解を大切にしていることでしょうか。

また練習では長い時間、同じ曲を何度も何度も繰り返して演奏しますので、コンサートで演奏する時に「慣れる」演奏をしないこと、常に曲は生き続けているので常に曲が「新鮮」であることを心がけています。

今後の活動目標を教えて下さい。また、今後挑戦してみたい楽曲等がありましたら教えてください。

西洋の音楽を日本人がきちんと演奏できているように、私も日本で行われている尺八音楽をきちんと演奏し、ロシアでも演奏活動を行いロシアへ尺八音楽を普及していきたいです。そしてロシアでも尺八を愛好してくれるお弟子さんたちに伝えていきたいと思います。そのために、ロシア語で書かれた尺八教科書を作成することがとりあえず直近の目標です。残念ながらまだロシアにはちゃんとしたロシア語で書かれた尺八の教科書がありません。

そして将来の目標は、ロシアに「国際尺八研修館」の支部を作ることです。国際尺八研修館は、尺八奏者の故横山勝也先生が1980年代後半に創立され、今ではアメリカ・ヨーロッパ・オーストラリアなど世界各国に支部ができていて、毎年どこかの国で国際尺八フェスティバルが開催されています。私の師である石川利光先生は横山先生の弟子にあたり、現在は国際尺八研修館の講師をされていますし、モスクワ支部を作ることはロシアでの尺八の普及にもつながるとも考えています。ロシアを含めヨーロッパで、尺八が芸術音楽として確立することが目標です。

また挑戦してみたい楽曲ですが、藤掛先生が素晴らしい作品を書いてくださっていますが、その中でも特にフルーティストのジェームズ・ゴールウェイが演奏された曲や、その他のアンサンブルの曲にチャレンジしてみたいです。

それと同時に、3年前に武満徹作曲「ノヴェンバーステップス」をさせていただいたので、また尺八コンチェルトなども機会があればぜひやってみたいです。